コラム

プロフィール
高山かおる
- 足育研究会 代表
- 済生会川口総合病院皮膚科部長
- 東京医科歯科大学大学院 皮膚科学教室特任講師
- 医学博士
- 皮膚科専門医
- フットケア学会評議員
- 日本トータルフットマネジメント協会理事
- 接触皮膚炎・皮膚アレルギー学会評議員
足が支える健康寿命(2015/11/11)
厚生労働省の発表しているH25年のデータによると男性の平均寿命は80.21歳、健康寿命は71.19歳でその差は9.02年、女性になると平均寿命は86.61歳で健康寿命は74.21歳となり、その差はなんと12.4年もあるそうです。つまり男性は9年の間、女性に至っては12年も、体に何らかの異常があり日常生活に制限がかかりながら生活しているということになります。
ではどういう理由から要支援や要介護になってしまうかということをみてみる(厚生労働省発表 平成25年 国民生活基礎調査の概況)と、要支援者では「関節疾患」が20.7%で最も多く、要介護者では「脳血管疾患(脳卒中)」が21.7%、「認知症」が21.4%と多くなっています。また常に介護が必要となる状態である要介護4に陥る原因の第3位は転倒による骨折という結果です。この結果を考えると内臓の疾患で支援や介護を受ける状態になる以上に、関節の問題や転倒といった体の外側の機能が悪くなることが健康年齢と平均年齢の差を生む問題であることがわかります。
私たちはこの問題を足の親指の爪のトラブルとつながっていないかということを調べたことがあります。なぜ足の親指の爪に着目したかというと、足の親指は体重を支えたり、体が移動するときに大きな役目を果たしているからです。また爪は指を保護しているばかりではなく、感覚を敏感にし、力がかかるのを支える役割があります。足の親指の爪に痛みがあったり、親指の爪が厚くなっている人を対象として3種類の下肢機能を測る検査で検討した結果、その対象の人たちの下肢の機能が低下しているということがわかりました。つまり母趾の爪の異常は、ひいては転倒リスクをもたらしかねないという結果だったわけです(A.imai他The international Society of Dermatology 2011,55,215-220)。
ではいったいどのくらいの方に爪の異常があるかということを調べた結果があります。それによると65歳以上の高齢者では足の親指の15%に陥入爪、44%に肥厚爪、さらに本人・家族が爪を切れず放置されていることが多いということでした(2003年フットケアのあり方に関する研究委員会 厚生労働省)。二つの検討結果をあわせると高齢者で爪の問題を持っている人は転倒リスクが高いという結果になってしまうのです。ただし、先の下肢機能の検討では異常のある爪にフットケアを行うと、下肢の機能を回復できるという結果もついています。フットケアというのは爪の周りを清潔にし、必要な長さに整え、痛みのある部分にはコットンを挟めるなどの簡単なものですが、とても効果があることがわかりました。この結果も深読みすると、爪の手入れを適切におこなうと転倒リスクを減らせるということを意味するのです。
現在生活習慣病や認知症にならないために適切な運動や、ウォーキングをすすめる自治体も数多くありますが、靴を履く前には爪のケアを行い、足や爪を痛めないための靴を履き、足腰を痛めずに歩く正しいウォーキング姿勢の知識を身につけてから行うことこそ健康年齢の延長につながっていくと思います。体の不自由な方はそれ以上に弱ることを防ぐために、現在健康な方はそれを維持できるように足下からケアをしてみませんか?
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