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宮本 由記

ココカラウィメンズクリニック所属
産婦人科医


女性アスリート問題から考える女性に起こりやすい体の問題(2022/01/13)

スポーツは本来健康を高めるものですが、過度のトレーニングや無理な食事制限をすると、運動によるエネルギーの消費量が摂取したエネルギーを上回り、相対的にエネルギー不足の状態になります。

女性アスリートの場合このエネルギー不足は初経発来遅延や無月経の原因となることがわかってきました。

本来10代後半から20歳頃は最大骨量を獲得する時期ですが、無月経による低エストロゲン状態が長く続いていると骨塩量は増加せず疲労骨折のリスクは高まります。

ただ、疲労骨折時の無月経頻度は15%の報告もあり疲労骨折には無月経以外にも様々な要因が関与していると考えられます。

最大骨量を獲得する時期の無月経は疲労骨折の原因のひとつになるだけでなく、将来的に閉経後の骨折のリスクを高める可能性もあります。

初経は成長のピーク(1年間の身長の伸びが最大だった年)の1年後に発来すると言われています。女性では10歳から13歳くらいに成長のピークが来ることが多く14歳までに95%が初経を迎えます。

アスリートの疲労骨折の好発年齢が16歳という報告もあることから、13歳までに成長のピークが見られない場合、エネルギー不足がないか検討してみるよう指導者や親へ啓発することをお勧めします。

第1の治療はエネルギー不足の改善です。

しっかり栄養を取り、練習量が多いようであれば未来の自分のために勇気を持って練習量を減らすよう助言します。

成長や筋肉量の増加にも鉄の必要量は増加するため、アスリートは鉄欠乏性貧血になりやすい状態です。エネルギー不足の改善と貧血の予防はまず食事をしっかりとることです。安易なサプリメントや鉄剤の内服、注射の使用はお勧めできません。

エネルギー不足を改善しても無月経の場合、低エストロゲン状態であれば骨量維持を目的にエストラジオール製剤(経皮剤)を使用します。

この場合試合や練習日程を考慮し2、3ヶ月に1回プロゲステロン製剤を使用し消退出血を起こします。

月経がある場合でも、月経困難症やPMS、過多月経等によりパフォーマンスが低下することがあります。

LEP製剤は試合の日程に合わせて月経を移動することができアスリートには有用です。

「月経がないほうがいい」「ホルモン剤は太る」など、現場に関わる指導者や親、アスリート本人の間違った認識を減らすために、医師による情報提供や啓発もとても大切です。

 

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「図」女性アスリートの三主徴
female athlete triad:FAT
Nattiv.A et al :American College of Sports Medicine2007


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