コラム

プロフィール

林美香 医師

  • ニューヨーク初 日系足専門病院「林美香足病科クリニック」院長
  • ニューヨーク大学附属関節専門病院スタッフ
  • 米国足病医学会公認専門医
  • 米国足病医学協会会員
  • ニューヨーク州足病医学協会会員

林美香足病科クリニック

350 Lexington Avenue (40th Street)Suite 501,
New York, NY 10016
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「足病医が語る アメリカ流 巻爪の治し方」~ エプソムソルトでの「ソーキング」~

日本におじゃまし皮膚科医の高山先生と医療について意見交換をした際、アメリカと日本では巻き爪の対処法も異なることがわかりました。「是非アメリカでのセルフケア方法を紹介して欲しい!」とリクエストをいただいたため、今回は私が普段患者様にアドバイスすることをまとめます。

誤って爪を切りすぎてしまったり、無理にきつい靴を履くと巻き爪ができ、爪の周囲が赤く腫れ炎症が起こる(ひょう疽=爪囲炎)と、とても痛いですよね?大人だけでなく、小さなお子様にもよく見られます。実は私自身も子供の頃ひょう疽になり、泣きながらお医者さんに治療をしてもらったことがあるそうです 。(すでに足の先生になる運命だったのかな?) では、急に痛みが出てきたけれど、すぐに病院に行けない場合、自宅でできる応急処置を皆様にご紹介します。

まず、ぬるま湯に「エプソムソルト(Epsom Salt) 」を入れ、足を15分ほどつけます(これを「Soaking/ソーキング」と呼びます)。これを毎日、1日2回朝夕と繰り返します。その後、シャワーで2度洗いした後に、テイッシュ等で水分を拭き取り、オロナインなどの抗菌軟膏を塗ります。そして、ガーゼなどで患部を優しくカバーし、圧迫しないようスリッパなど指先のあいた靴を着用します。この作業を、炎症が治まるまで、または深爪した爪が伸びきるまで毎日続けます。これを繰り返すと、大抵の巻き爪の痛みは1週間ほどで治まります。一方、この方法で良くならない場合、またはすでに大きく肉芽腫ができてしまっている場合は、局部麻酔後に巻いた爪の一部を取る簡単な手術をその場で行います。アメリカの患者様は、「手術をしてでも、早く痛みを取り去って欲しい」という方が多いんですね。術後は24時間で患者様自身に包帯をお取りいただき、前述した「ソーキング」を1日1回、毎日行っていただきます。

「ソーキング」のポイントとして、ただの「塩」を使用するのではなく、「エプソムソルト(EpsomSalt) 」という、硫酸マグネシウムを含むクリスタル(結晶化)塩を使用するようお勧めしています。日本ではまだあまり知られていないようですが、アメリカの足病医、皮膚科医、整形外科医の間では「巻き爪の痛みには、エプソムソルトでのソーキング」というのは周知の事実。通常、2-3リットルのぬるま湯に対してエプソムソルト1-2カップほどを溶かしますが、メーカーによって適量が異なるので、購入された商品の用途(足湯用、お風呂用など)に従っていただきます。

この「エプソムソルト」、アメリカでは「おばあちゃんの知恵袋」のように、昔から知られているようです。特にご高齢の方やスポーツ選手は、足がむくんだり、筋肉痛になると、エプソムソルトを使って足のソーキングを行います。エプソムソルトは処方箋薬ではなく、薬局やスーパーで簡単に手に入る大変身近なものです。日本人にとっての「ミョウバン」や「重曹」に近いのかもしれません。

エプソムソルトのソーキングが巻き爪に効く理由は、以下の2点が挙げられます。
⑴ 患部の腫れを取る効果があり、深爪が皮膚にささって肉芽腫ができるのを防ぎます。
⑵ 皮膚を軟化させる効果があるため、皮膚のひび割れ・化膿を防ぐのに効果的です。通常、「ひょう疽」は巻き爪の周りの皮膚が常に圧迫されることで硬くなり、そこから皮膚がひび割れ、細菌が入って起こります。エプソムソルトを使うことで、細菌感染の原因となるひび割れができることを防ぐことができるのです。

興味深い事例があります。知人の紹介で、アメリカ人の若い女性がセカンドオピニオンに来られました。「他の先生に診てもらって、どうして手術を受けなかったの?」と尋ねながら、私は巻き爪の度合いを見るため、患部に触れようとしました。すると彼女は「触らないで!!」と突然大きな声をあげました。「爪の長ーい破片が挟まっているのを見たの!もうこれは手術をしないと治らない!だけど痛くて痛くて、少し触られるだけでも気絶してしまいそう。そんなに触りたいなら、全身麻酔をかけて!」と。 さらに、「今は期末試験中だから手術を受けたくない」や、「手術後は実家に帰るから、再診には来たくない」など、自分の都合を優先する主張を続けてばかり。一生懸命話を聞いて落ち着かせながらも、「この患者様に手術をするのは大変そうだぁ」と感じました。そこで、「エプソムソルトでソーキングをきちんとすること。その理由は...」と「why/なぜ」そうしなければならないかをきちんと説明し、なんとか彼女に納得していただきました。「1週間経ってまだ痛みがあるようなら、手術をします。本当は局所麻酔でできるけれど、あなたは全身麻酔を希望している。全身麻酔は手術室で行わなければならないし、身体にも負担がかかります。そんな大掛かりなこと、できればやりたくないでしょう?しっかりとソーキングを続けて。」と話し、とりあえずその日は帰宅していただきました。

そして1週間後。本当に手術が避けられるか半信半疑だった私は、少し緊張しながら、恐る恐る彼女が待つ診察室の扉を開けました。するとそこには、満面の笑みの彼女が。「先生すごい!本当に手術をしなくて良くなった、もうちっとも痛くない!」と言うのです。患部は予想以上に綺麗になおっており、私は思わず「どうやって治したの?」と尋ねてしまいました。すると彼女は、「実は、最初の先生からもエプソムソルトの足湯をしなさいと言われたの。でも、きちんとやれば手術しなくてよくなるとは教えてくれなかった。だから、数日置きにしかしなかったの。でも今回は、言われた通りに毎日やったわ!するとどんどん痛みがなくなって、赤みもとれて、気づいたら治ってた!アンビリーバブル!」と。私も心の中で「本当にアンビリーバブル!」と返答しつつ、エプソムソルトの効果を再認識したのです。

他にも、トゲが刺さった時や、捻挫による腫れ、慢性の浮腫みにも効果があるので、アメリカでは「各家庭に常備しておくべきもの」とされています。またプロのスポーツ選手の中には、筋肉の疲労をためないよう、運動後にエプソムソルトを入れたお風呂に浸かる人もたくさんいるようですよ。

ちなみに「エプソムソルト」の名前の由来は、17世紀イギリスのロンドンから約15マイルに位置する、「エプソム」という街の温泉源水からみつかった結晶にあるんだそうです。この地の水を牛にあげようとしたところ、牛は嫌がって飲まない。なぜだろうと不思議に思った農家の人が飲んでみたら、湿疹や口周りの傷がみるみる治ったとか。噂はたちまち広がり、街の名前がこの結晶の名前の由来になったそうです。

実はエプソムソルトの主成分である硫酸マグネシウムは、傷口や筋肉痛に効くと言われている硫酸形の温泉にも含まれているそうです。日本人も知らず知らずのうちに、「エプソムソルト」の恩恵に預かっていたのですね。

アメリカでは、1kgで1000円程で購入できます。お手ごろですが、とても効果の高い「塩」ですね。日本でもインターネット販売等で、比較的安価に購入できるようなので、アメリカの「Old Natural Remedy」(おばあちゃんの知恵袋)、是非1度お試しください!

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