コラム

プロフィール

大沼 幸江

  • 足育研究会理事
  • Nature’s walk株式会社 取締役
  • ネイチャーズウォーク本店 統括マネージャー
  • 全日本ノルディック・ウォーク連盟 公認指導員

19年間の雑誌社編集部・出版部勤務を経て、2008年フリーライター兼、ドイツ人整形外科靴マイスターKarsten Rieche主宰の「整形外科靴工房R・I・O」マネージャーに。2013年Rieche と共同で足と靴の専門技術を提供し技術者を育成するNature's walk株式会社を設立、同取締役就任。マイスターの通訳兼アシスタントとして、全国のコンフォートシューズ専門店、靴メーカー等の開発・技術指導に携わるほか、千葉市中央区の「ネイチャーズウォーク本店」を企画・統括マネージメント。2015年月刊デーリィマン誌において「足元からの健康管理」連載執筆中。


足もとからの健康と靴選び(1)

足は体を支える大切な土台。現代人にとって健康に歩くことは、健康寿命を延ばし寝たきりなどを防止し自立した生涯を送るための、誰にでもできる近道です。そして、健康に歩くための欠かせない道具に「靴やインソール(中敷き)」があります。

医療保険制度の先駆けであるドイツでは、整形外科靴マイスター(OSM)という国家資格があり、病気や怪我で休職した人を靴で社会復帰させる試みが一般に普及していますが、日本では靴が"足もとからの健康を支える道具"という意識はいまだに低く、通常の靴選びはファッション優先になりがちです。でも、"健康"を視点に靴を考えると、今までと違った靴の選び方が見えてきます。

人が歩くのは何のため?

多くの現代人は、仕事やスポーツなどで膝や腰を痛めていますが、その原因の一つに足裏のアーチの崩れが考えられます。人の体を支えている小さな足の崩れは、いわばビルの土台にヒビが入っているようなもの。ほんの少しのヒビ割れと見くびって補修しないでいると、いつかビル全体が傾き大惨事に成りかねません。

また、自分の足で生涯歩くことは、文字通り自立し健康寿命をまっとうすることだと思うのですが、それができる現代人はあまり多くはないようです。なぜかというと、生活環境や靴がそれを難しくしているから。もし、人が歩くのが単なる移動手段だとすると、車や電車でいいと思うかもしれませんが、人はどんなに文化的な暮らしをしようと、動物であることを忘れてはいけません。動物である私たちは「歩くこと」で、心臓から体全身に送られた血液を、再び心臓に戻せるようにできています。足が"第2の心臓"と呼ばれる所以です。また、足に負荷をかけて歩くことで筋肉や骨も丈夫になりますし、毎日適度に歩いている人は歩かない人と比べ心臓も丈夫になるといわれています。

さらに、多くの女性が閉経後ホルモンバランスの崩れから骨がもろくなっていきます。特に中高年女性こそ積極的に歩かなければ老後骨折などをきっかけに寝たきりになるリスクが高まります。乳製品や小魚など、骨の材料となるカルシウムを含む食品を食べていても、歩かなければ意味がないのです。また、晴れた日に買い物や散歩などで外を歩くと、なぜか気分が良くなる感じがしませんか? これは太陽の光を浴びて適度に体を動かすと脳から幸せ物質のドーパミンが出て楽しい気分になるから。このように、歩くことは様々なストレスを抱えた現代人や高齢化に向かった今の私たちだからこそ、より必要なのです。

進化した足が衰え始めている?

もう一つ現代人の足を痛めつけているのは、他ならぬ靴とアスファルトなどの硬い地面。はるか昔、裸足で歩いていた当時の人の足は、ゴツゴツした根や石を踏むこともあれば、柔らかい土や草、砂浜などを歩くことが日常的で足裏は様々な運動や刺激を受け、筋肉や腱、骨が発達してきました。そして長距離移動や寒さなどから足を守るため人は履物=靴を履くようになりましたが、今の靴は足を守る道具からファッションとなり、足を牢獄に閉じ込め、せっかく進化した足の機能を奪ってしまうことになったのです。また、平たんで硬いアスファルトの道路も車社会にはよいのでしょうが、足の機能を退化させ、足や膝の関節を痛める原因の一つになっています。

靴にファッション要素が加わり、足の骨格を無視した靴による足の痛みや変形の問題も多くなり、その代表例がハイヒールパンプスを履く女性に多い外反母趾や開張足です。
靴本来の目的に立ち返った足の保護・健康のための靴=コンフォートシューズ(健康靴)が少しずつですが、日本でも注目を集めています。そもそも医療の分野には整形靴(整形外科靴)という装具的な靴もあり、コンフォートシューズも整形靴の先駆けのドイツと近隣ドイツ語圏で生まれました。特にドイツは第1次・第2次世界大戦と多くの兵士を必要としていたので、足を負傷した兵士の前線復帰のため、戦後は社会復帰のためにと、整形靴の開発が進み、整形外科靴マイスター制度も同時期に誕生しています。

最近コンフォートシューズという言葉は'足に優しい靴'という意味でつかわれることが増え、様々な目的の商品がでてきています。ですが、'足に優しい靴'は'足を守る靴'と言えないことも多く、足育研究会では「履いたときに健康な人の足の状態に近づけ、歩行を助けてくれる履物」だと定義すべきではないかと考えています。そのように私たちがコンフォートシューズと考える靴の中には概ね"健康な人の足が本来持っているはずの縦・横のアーチ構造"をサポートする立体的なインソール(写真)が備わっていて、ドイツでは、このようなタイプのインソールを「フットベッド」と呼びます。まさにベッドの上で疲れた体を癒すように、疲れた足を癒してくれるからです。

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靴とインソールが体を支え、歩くための道具と考えると、近視・乱視で視力の落ちた人が眼鏡を掛けるのと似ています。フレームに相当するのが靴、そして視力を測り作るレンズが、足を測り足の弱点を補うオーダーインソールに当たります。また、年齢と共に老眼鏡が必要になってくるように、健康な方でもだんだんと足・膝・腰に何かしらのサポートが必要になってくるものです。

(※本コラムは、主に足育研究会顧問/ドイツ整形外科靴マイスター、カーステン・リーヒェの考えに基づき構成されています)